不動産エージェントの桜井きゃらです。
コロナ禍による外出自粛要請が発令されてから、ほぼ一年になります。
それ以来、カリフォルニア州不動産局 (DRE) の指示で、オープンハウスは一切禁止。
ビデオ、スライドショー、3Dツアー、または、バーチャルオープンハウスといって、
エージェントが物件の内部を実況中継して質問に答えるようなライブイベントも行われています。
実際に内覧したい場合は、大人は二人まで(子供は同伴OK)とエージェント一人だけで、予約制で行うことになりました。
しかも、内覧予約の前に、コロナ感染症状はない、という宣誓書『PEAD (Property Entry Advisory and Declaration)』に署名、提出しないと内覧ができません。
以前は、オープンハウスにいらしたお客様といろいろお話をする機会もありましたが、コロナ禍が収束するまでは、いろいろと制限されている状態が続いています。
1 中国風水
これは、以前、オープンハウスをやっていた時の話です。
小学生くらいの娘さんとそのお母さん、そして祖母らしき女性三人が、オープンハウスにやってきました。
祖母らしき女性は、玄関から入ってくるなり、大きな声で叫びました。
「あー!だめ、だめ、この家はだめだわ!」
びっくりして、その女性を見つめると、彼女が言いました。
「あなたもアジア人なんだから、知ってるでしょ!風水よ、風水。この家はだめよ。」
中国系だというその女性は、玄関ドアを開けて、まっすぐ目の前から上へのびている階段を指さして説明してくれました。
玄関を開けて、すぐ真正面に階段がある場合、階段から外へ富が出ていってしまうために、その配置は風水ではよくない、とされているそうです。
恥ずかしながら風水にさほど詳しくなかった私は、シリコンバレーの不動産販売での風水の影響力を実感しました。
また、別なお客さんは、ベトナム系の方でしたが、家探しの基準として風水に基づいた注文が必ずつきました。
家の裏側に山があるのはいいが、家の玄関が山に向かっているのは、幸運をはばまれるので、よくない、
と、その方は、家の向きにこだわりました。
さらに売り手側でも、風水によると、今ではなく夏に売ると高く売れるので、そのタイミングで家を売り出したい、という方もいます。
家というのは、生活の中心になるものですから、できるだけ運が開ける間取りや方角、タイミング等を確認して安心したいという方も多いのでしょう。
2 インド風水(ヴァーストゥ・シャーストラ (Vastu Shastra))
一方、インドでも同じような建築・居住空間に関する思想学があります。
ヴァーストゥ・シャーストラ (Vastu Shastra) と呼ばれるインド古来の思想学は、家の方角や間取り、また建築環境学などに影響を与えています。
以前、インド系の買い手の方に、「南向きの家はやめてください。」と言われたことがあります。
「え?玄関が南向きはだめなんですか?南東や南西もだめですか?」と聞き返すと、
「だめです。とにかく少しでも南に向いている家はだめです。」ときっぱり言われました。
その時も、ヴァーストゥ・シャーストラの存在を知らなかった私は、南がよくない方角だと言われて驚いてしまいました。
日本の家相や中国風水では、北よりも南向きの方が縁起が良いという印象を持っていたからです。
ところが、ヴァーストゥ・シャーストラでは、北が、縁起が良いそうです。
ヴァーストゥ・シャーストラは、日本ではインド風水とも言われ、中国風水よりさらに古い歴史を持っています。
紀元前2500年頃から繁栄したインダス文明の遺跡モヘンジョダロやカンボジアのアンコールワットなどの建築物も、ヴァーストゥ・シャーストラの影響を受けているという話です。
3 中国風水とインド風水 (ヴァーストゥ・シャーストラ)の違い
では、中国風水とインド風水(ヴァーストゥ・シャーストラ)はどのような違いがあるのでしょうか。
<名前の由来>
中国風水 (Feng Shui) は、文字通り、風と水。自然界に存在する木、火、土、金、水の要素と気のエネルギーの流れなどの法則に基づいています。
ヴァーストゥ・シャーストラ (Vastu Shastra)のヴァーストゥは住居という意味で、シャーストラは学問という意味。
中国風水と同じように、自然界に存在する地、水、火、風、空の調和とバランスをたもつことで、土地や建物が、人間によい影響を与えると考えられています。
<幸運を呼ぶ方角>
風水では、太陽が昇る方角、東や南向きの玄関が縁起が良いとされています。
一方で、ヴァーストゥ・シャーストラによると、磁気エネルギーの源泉である北の方角が幸運を呼び寄せる方角のため、北向きの玄関が開運を呼ぶとされています。
<開運を導く小物>
中国風水では、メタル製の棒を何本か吊るしたウィンドチャイムやラッキーバンブー(ミリオンバンブー)と呼ばれる竹に似た植物、ウォーターファウンテンなどが使われます。
ヴァーストゥ・シャーストラでは、ヒンディー語でトゥルシー(tulsi)、英語ではホーリーバジル、日本ではカミメボウキと呼ばれる植物が使われます。香辛料やアロマオイルなどでもよく使われています。
いろいろと細かい違いはあるものの、こうした小物を使うことで、凶運をよい運に変えられる、などおおまかなところでは、共通点もあるみたいです。
4 日本の家相
では、日本の家相はどうでしょう。
日本の家相は、古来からの神道や仏教の思想が反映されています。
その昔、疫病や天災などは、神の祟りが起こすものと考えられ、祟りを起こす神の存在を鬼に例えて恐れていました。
中国から伝来して平安時代に盛んに信じられた陰陽道では、こうした鬼が出入りする方角として北東(丑寅の方角:うしととらの間)を鬼門として忌み嫌ったそうです。
この鬼門から病気や災いが入ってこないように、魔除けであるヒイラギやナンテンなどの植物を植えたり、鬼門の方角に玄関を作るのを避けて家つくりをしたりしたのが、家相の始まりのようです。
今では、こうした鬼門も迷信であるとして、鬼門がどの方角かも知らない人がほとんどではないでしょうか。
5 開運を呼ぶ家にするには・・・
これらの家にまつわる思想や信仰は、それぞれの文化によって異なる上、同じ文化圏でも、信じる方もいれば、もちろん気にしない方もいます。
玄関を開けるとすぐ階段だった家は、中国風水ではよくないようですが、結局、長くかからずに売れました。
お客さんの中でも、風水を信じる香港出身のご主人とは対照的に、北京出身の奥さんはあまり気にしないというカップルもいました。
「夫はかなり信じていますが、私はあんまり。。。風水といってもたくさん流派があるんですよ。その流派によって少しずつ違いがあるので、どれが正しいのかわからないですよね。」
と奥さんの弁。
ある時期、家探しをしている方々には念のため
「方角を気にしますか?」と聞いていて、逆にびっくりされたこともあります。
「え?方角?いや、ぼくたちは、全然気にしないよ。」
と若いインド系カップルは、意外な様子でした。
まだまだ住宅不足で、市場に出たとたんに家が売れてしまうシリコンバレーでは、学校区や通勤範囲などを考慮して、さらにこうした家相に関する条件をつけると、希望にあった家を探すのは難しいのが現実です。
幸いなことに、風水、ヴァーストゥ・シャーストラ、あるいは日本の家相にしても、必ず、魔除けや開運のための解決法があります。
ある方角には特定の色の小物を置くとか、ある部屋にはある植物を置く等々、誰でも簡単にできる方法です。
ただ、それぞれの思想で内容が違う上、中国風水では、その年によってまた内容が変わったりします。
では、どの思想にも共通していて、いつでも使える開運を呼ぶ方法はないのでしょうか。
実は、あるんです。
どんな場所のどんな家にでも使える、とても簡単な方法が一つあります。
では、その究極の解決方法とは?
整理整頓と掃除なんです。
家の中を片付けて、清潔にし、
風水なら「気」、ヴァーストゥ・シャーストラ なら「プラーナ(生命力・呼吸)」の流れをよくすることで、よい循環が作られて、運が開けるそうです。
使わないものが山積みになって物が散乱している、キッチンやトイレが汚れている、
そんな家では気や生命力が滞ってしまい、災いの元になるのもわかるような気がします。
春の大掃除で、家の中のいらない物を処分し、普段使っている場所を清潔にする。
清潔ですがすがしい家にして、開運を呼ぶ。
こんなシンプルなことで運が開けるなら、試す価値はあるかもしれませんね。