高金利!それでもシリコンバレーの不動産価格が下がらない5つの理由
不動産ブローカーの桜井きゃらです。
昨年度の今頃も、同じようにガソリン代の高騰にぼやいていましたが、カリフォルニア州平均ガソリン価格は9月29日現在で、1ガロン6.07ドル (AAA Gas Prices) にまで値上がりしたそうです。
インフレがなかなか収まらない中、昨年から米国連邦準備制度理事会(FRB)は、利上げを繰り返してきました。
9月28日付けのFreddie Macによる30年固定制ローンの平均利率は、7.31%に上がり、2000年以来の高い利率になっています。
幸いなことに、先週の米国連邦準備制度理事会(FRB)定例会の発表では、主要政策金利の据え置きを決定しました。
ただし、年内にもう一度追加で金利を引き上げ、その後は高水準の金利をより長期にわたって維持するという見方が強まっています。
通常、住宅ローンの利率が上がると、買い手の動きは鈍くなります。
そうすると、当然、需要が減るので、不動産の価格も下がる・・・はずです。
下記の表を見ると、確かに去年と比べると、2023年5月段階で、カリフォルニア州全体もベイエリア地域も住宅の中間価格は下がっています。
しかし、2021年とほぼ変わらず高い中間価格を保っており、競争が激化した2018年よりも断然高い中間価格になっています。
今年7月から8月にかけて、サンタクララ郡やサンフランシスコの一軒家の価格は上昇、ベイエリア全体で今年の8月までの一年間に5%も住宅価格が上昇しています。
実際には、家のサイズや地域によっても、価格の動きは異なります。
よい地域のよい物件はいまだに複数オファーの競争で、リスト価格より高く売れていきます。
高金利になったからと言って、大きく住宅価格が下がるということが、特にこのシリコンバレー地域では起こりにくくなっています。
なぜシリコンバレーの不動産価格は、下がらないのか。
今回は、その5つの理由をお話しましょう。
理由その1:住宅不足
一番大きな理由は、悪化する一方の住宅不足で、家探しをしている人が、まだたくさん存在するということです。
住宅の需要は雇用の伸びと連動しています。
2020年にはコロナ禍で大幅に雇用が減りましたが、サンタクララ郡では、今年の5月には完全に雇用回復、2019年12月の雇用増大ピークを上回っています。
一部のハイテク企業で、レイオフが行われましたが、それでも雇用市場は健全なレベルを保っています。
Firsttuesday journal “Santa Clara County regional housing indicators”
コロナ禍真っ最中は、リモートワークが可能となり、会社に通勤する必要がなくなった人たちは、郊外や他州、あるいは別な国へ移動しました。
ところが、コロナ禍が収束すると、社員をオフィスに戻す企業が増え、通勤圏内に住まいを構えることが必要になった人も増えています。
一方で、こうした人口増加に伴う住宅建設はまだまだ遅れているために、慢性的な住宅不足は解消していません。
おそらく今後もしばらくは住宅難が続いていくため、とくにこのベイエリアでは、持ち家を購入するだけでなく、賃貸するのにも、高値が続いていくと思われます。
Firsttuesday journal “California’s for sale inventory: a symptom of seller reluctance in 2023”
理由その2:在庫不足
もともと住宅不足な上に、さらに売りに出る物件の在庫不足が、需要と供給のバランスを崩しています。
2022年初めまでの10年間くらいに家を購入したり、ローンを組み替えたホームオーナーは、非常に低い金利のモルゲージを手に入れました。
もし、今の家を手放して、買い替えるとすると、2倍以上の金利でないとローンを組むことができません。
また、おそらく買い手も高金利で買い控えるだろうから、よい時期ではない、と判断するホームオーナーもいるため、今、家を売る人が少なくなっています。
そのために高金利の現在でも、よい地域のよい物件がでれば、潜在的買い手は動き、競争になって高い値段で売れていきます。
<在庫不足で、すぐ売れた実例>
9月半ばに売却したサニーベール市の2ベッドルームのコンドミニアムの例をご紹介しましょう。
賃貸物件だったその家を、テナントが出たタイミングで売りたい、と、売主さんからの相談がありました。
ただし、そのコンドミニアムでは、HOA費用の特別徴収でかなりの金額が徴収されることになり、買い手のローンがおりにくいような状況でした。
しかも、高金利でハイテク企業のレイオフニュースが流れる等で、売主さんは不安でいっぱいでした。
売る準備をしている最中、夜中に売主さんが、売るのをやめた方がいいかどうか、とパニックになって電話してきました。
どうやら、コンドミニアムの住人たちの情報で、HOA費用の管理がずさんだとして、住人がHOAを訴えるらしい、と聞き、訴訟になったら、さらに買い手が引いてしまい、その家を売ることができなくなるのではないか、と不安になったようです。
よく話を聞いてみると、あくまで噂段階であり、実際に訴訟になる可能性はわからない状況でした。
そこで、逆に今の物件在庫が少ない状態の方が、売りやすい場合もあること、
ネガティブな要素を覆すような売り出しの対策を立てること、
万一訴訟になったとしても、シリコンバレーでは、家は売れるから大丈夫、と説明しました。
すると、売主さんはとても安心されて、このまま家の売り出し準備をすすめて売ることに同意されました。
結果、物件を売り出して、5日間で3件のオファーが来て、1件はオファー価格よりかなり高い価格だったものの、問題なくすぐクローズできる全部現金のキャッシュオファーをとり、10日間でクローズ、 売却完了しました。
おそらく売れるまでに3か月くらいかかるのではないか、と覚悟していた売主さんは、驚くとともに、非常に喜んで、感謝して下さいました。
オープンハウスでは、『物件在庫が少なく、気に入った物件を見つけるのが難しい』『いいと思った物件は競争になってすぐになくなってしまう』という声を耳にしました。
高金利でも、潜在的な買い手は動いているので、物件在庫が少ないために、皆が気に入った物件は競争になって、今でもすぐ高く売れていきます。
理由その3:現金購入
この実例の買い手のように、ローンを利用せずに現金で買う人にとっては、高金利は全く影響ありません。
ベイエリアの住宅価格は、こんなに高額なのにも関わらず、現金で買っていく買い手も多い地域です。
キャッシュバイヤーというと、プロの投資家や企業というイメージがあるかもしれません。
実際には・・・
自宅を売却してその資金を使う人、
ボーナスとして受け取ってきたRSU(譲渡制限付株式ユニット)などの株を現金化する人、
親や親戚など、家族でお金を集めて買う人、
年齢や人種も様々な一般個人が現金で買っていくのが、このベイエリア地域です。
先日、サンノゼの一軒家を購入されたお客さんも、イギリスの自宅を売却した両親をベイエリアに呼び寄せ、その売却益を米ドルに換金した現金で、ご両親のために家を購入されました。
こうした人たちの不動産購買意欲がある限り、高金利は関係なく、不動産は売れていきます。
理由その4:全世界の人が競争
上記のような現金購入の買い手が、このベイエリア地域に多い一つの原因は、移民が多いからです。
日本のような安全な国から来た日本人には、想像もつかないほど、自国の政治や通貨が不安定な国から来る人もたくさんいます。
こうした移民たちは、自国から持ってきた資産を安全に管理するため、米国内の不動産に投資する場合が多いです。
きちんと米国の登記システムに守られ、しかも、ほぼ確実に価値が上がっていく不動産は、他国から来た移民の資産保護の大きな柱になっています。
そのために、家族中でお金をかき集めてでも、一軒買っておこう、とまるで車を購入するかのような感覚で不動産に投資します。
ベイエリアで初めて物件を購入される日本人の方には、いつも説明するのですが、家は一生ものという発想の日本人と異なり、自分たちの資金が続く限り不動産を売ったり買ったりする、日本人の価値観と全く異なる感覚を持つ全世界の人たちが競争相手です。
こういう人たちは、気に入った物件があれば可能な限り資金を上乗せしてでも購入しようするため、控えめに考えていると、とても競争には勝てない、という現実があります。
カリフォルニアは気候もよいし、ベイエリアにはたくさんの企業があり、仕事がある。
よい学校もあれば、様々な移民のコミュニティもある。
そのために、全世界からここに住みたい人が集まってきます。
当然、住宅不足、不動産価格の高値は続くことになります。
理由その5:将来性
上記の内容と重なる部分も多いのですが、このベイエリア地域の将来性が、不動産価格に影響しています。
コロナ禍で一時的に不動産市場が打撃を受けたのは、ラスベガスのようなレジャー・エンターテイメント産業が中心の地域でした。
しかしハイテク企業中心のベイエリア、特にシリコンバレー地域では、あまり影響を受けることなく、不動産も売れ続けています。
今やAI関連部門がさらにこの地域の労働市場を広げ、おそらく今後も最新の技術を生み出す世界の中心地として、ハイテク産業が伸びていくと思われます。
こうした企業に勤める高学歴の人達が家族で移住してくるため、シリコンバレー各地の公立学校のレベルもどんどん上昇しています。
産業の発達、雇用増大、学校レベルの上昇、こういった将来性を見据えると、この地域の不動産の需要は大きくなる一方です。
そのため、特にハイテク企業から近い地域やよい学校区の不動産は、高金利にも関わらず、飛ぶようにすぐに売れてしまいます。
まだ、グーグルやフェイスブックなどが、今のように大企業になる以前の20年前くらいでも、学力トップレベルで知られるクパティーノ学区内の一軒家のオープンハウスは、押すな押すなの大盛況でした。
当時の住宅ローンの金利も5~6%でした。
今現在でも、クパティーノ学区内の一軒家は20~30件もの複数オファーが集まり、数十万ドルも価格が吊り上がって落札されています。
おそらく今後も、ベイエリアは社会・経済面で成長していき、世界中から人を集め、それに伴って、不動産価格も上昇を続けると思われます。
結論
金利上昇の影響で、昨年の今頃は『住宅不況(Housing Recession)』が来るのではないか、
あるいは、今年初めに起こったシリコンバレー銀行の崩壊で金融危機が訪れるのでは、
と心配されましたが、結局、住宅不況も金融危機も起こらず、不動産は通常通り売買されています。
ベイエリア、シリコンバレーは上記の5つの理由がある限り、今後も住宅価格は上昇し続けていくでしょう。
家の売却、あるいは購入を考えている場合、一番大切なのは、必要な情報を早めに収集し、準備をして、すぐ動けるようにしておくこと、です。
この地域の不動産売買のスピードは恐ろしい速さで進みます。
景気や金利の行方を見てから、と先延ばしにしていて、急に機会が訪れた時、バタバタと慌ててタイミングを逃してしまいます。
住宅価格は、地域や物件のサイズや状態によって、かなり異ります。
一般のオンラインで載っている評価価格は、あまり正確でない場合もあります。
正確な評価価格や近隣の市場価格の最新値などを専門家に相談されて、スピードの速いベイエリアの不動産市場で、いつでもすぐ動けるように準備されてくださいね。
<引用・参考文献記事・データ・画像>
- AAA Gas Prices: https://gasprices.aaa.com/?state=CA
- Freddie Mac Primary Mortgage Market Survey : https://www.freddiemac.com/pmms
- Forbes Advisor “Bay Area Housing Market” by Josh Patoka
- The Mercury News Housing “The slump in Bay Area home prices could be over” by By Kate Talerlco Published on September 28, 2023
- Firsttuesday journal “Santa Clara County regional housing indicators”
- Firsttuesday journal “California’s for sale inventory: a symptom of seller reluctance in 2023”
ベイエリアの不動産についての貴重なお話しが、詳しくてグラフ付きで読み易くてわかり易くて、夢中で一気に拝読いたしました。
ご感想をありがとうございます!