水の話 その2:ウォータートリートメントシステム (Water Treatment System)
不動産エージェント・ブローカーの桜井きゃらです。
前回のブログでは、硬水と軟水についてお話しました。
今回は、アメリカで広く使用されているウォータートリートメントシステムについてお話しましょう。
日本で、『トリートメント』という言葉を聞くと『へアトリートメント』を連想してしまうかもしれません。
英語の『Water Treatment System』というのは、水の質を向上させるために行う浄化システムの総称です。
前回お話した硬水を軟水に変えるウォーターソフトナー、また似たような装置のウォーターコンディショナー、その他の浄水器がウォータートリートメントシステムに含まれます。
まずはそれぞれの機能や用途の違いについて説明しましょう。
1. ウォーターソフトナー(軟水器)とは?
ウォーターソフトナー(軟水器)とは、硬水に含まれるミネラル分を、塩を使ってイオン交換して除去し、軟水に変える装置です。
<ウォーターソフトナーの構造>
ウォーターソフトナー(軟水器)は、イオン交換樹脂ビーズ(Resin beads)の入ったミネラルタンクとイオン交換に必要な塩を入れるブラインタンク(Brine tank)からなります。
このミネラルタンクを水道管とつなげると、家全体に軟水を流すことができます。
ブラインタンクには常にウォーターソフトナー用の塩を入れておきます。
ミネラルタンクのタイマー付きプログラムに水の軟度設定等を入力してセットすると、自動的に作動して軟水を供給し続けてくれます。
<ウォーターソフトナーの仕組み>
ウォーターソフトナーは、ブラインタンクから取り入れた塩のナトリウムイオンを樹脂ビーズ表面に付着させ、ミネラルタンクの中で、硬水中のカルシウムやマグネシウムイオンと交換します。
カルシウムやマグネシウムイオンは、ナトリウムイオンと交換されて樹脂ビーズに付き、硬水からミネラル分が取り除かれて軟水が出来上がります。
樹脂ビーズにカルシウムやマグネシウムイオンがたくさんついてナトリウムイオンが足りなくなってくると、またブラインタンクから塩のナトリウムイオンを取り入れてミネラルを洗い流します。
この過程を繰り返して、軟水を供給し続けてくれるシステムになっています。
<ウォーターソフトナーの歴史>
ウォーターソフトナーの歴史は古く、1830年代にさかのぼります。
当初は、Lime Water(calcium hydroxide)を使って軟水にする方法が考案されたそうです。
1850年代になると、イオン交換でミネラル分を取り除く方法が発明されます。
実際にウォーターソフトナーなどのウォータートリートメントシステムが製品化されて、ビジネスとなるようになったのは、1930年代だと言われています。
アメリカのサウスダコタ、アイオワ、ミネソタなどの硬水地域から、徐々にウォーターソフトナーが広がっていったようです。
<ウォーターソフトナーの設置条件>
ウォーターソフトナーは、簡易式浄水器と違って、簡単に水道の蛇口などに取り付けることはできません。
通常、家全体の水道管を軟水にするように、水道管につなげて設置します。
また、作動させるには、電源につなげる必要があるので、近くに電気コンセントが必要になりますし、ミネラル分を洗い流す排水の設備も必要になります。
大抵は、ガレージ内の水道管のそばに設置します。
水道工事等に詳しい方なら、ウォーターソフトナーをご自分で購入して設置することも可能です。
ただし、軟水を流す場所を限定したい場合などは専門業者に配管と設置を頼んだ方が無難です。
もし家のリモデル等を考えられている場合、コントラクターに希望の配管で設置してもらうという方法もあります。
また、専門業者からレンタルで借りて、メンテナンスに定期的に来てもらうという方法もあります。
<ウォーターソフトナーの利点>
前回の記事でも少し述べましたが、軟水は以下のような利点があります。
*髪や体を洗う時に髪がきしんだり、肌がつっぱる感覚がなく、抜け毛が気になる方や乾燥肌の方にはよい。
*石鹸の泡立ちがよいので、石鹸や洗剤の使用料が少量で済む。
*洗濯物にミネラル分が残らないので、柔らかい仕上がりになる。
*ガラスのコップや水道蛇口などの水回りに、スケールと呼ばれる白いフィルムのようなカスが残らない。
*ミネラル分が乾燥して残るスケールが発生しないので、瞬間湯沸かし器や給湯器などの家電製品の故障が少なく長持ちする。
*軟水はおなかにやさしく、お米を炊いたり、日本茶を入れたりする時の風味がよい。
<ウォーターソフトナーの難点>
ウォーターソフトナーの使用で気を付ける点は以下の通りです。
*出来上がった軟水には、微量のナトリウムが含まれるため、塩分を控えている方は飲水としての使用には、注意された方がよいと言われています。
*ナトリウムは植物から水分を吸水、脱水症状にして枯らしてしまうため、ウォーターソフトナーを通した水は使わない方がよいそうです。
そのため、通常、外についている蛇口やスプリンクラーにつながる水はウォーターソフトナーを通さないように配管します。
*ナトリウムやミネラルを含んだ水を排出しなければならないので、下水や環境への影響の懸念がある。
*定期的に塩を補充しなければならない。
この塩は普通の食塩ではなく、ウォーターソフトナー用に加工された粒上の塩化化合物で、どこでも売っています。
<ウォーターソフトナーの難点の解決方法>
ただし、こうした難点を解決する方法もあります。それは、塩の代わりにカリウム(potassium)を使うことです。
*塩分を控えている方にも、カリウムを使った軟水は安全。
*カリウムは植物に必要なミネラルなので、この軟水を植物にあげても枯れる心配がない。
*カリウムなら地中に戻っても環境にそれほど大きな悪影響はない。
ただし、カリウムにも難点があります。それは、価格が塩の3~4倍とかなり高価なことです。
また、カリウムは塩に比べて、イオン交換により多くのカリウムを必要とするため、価格の高いカリウムをさらに塩より多く使わなければならなくなります。
ウォーターソフトナーの設置を考えられている方は、こうしたことに注意され、ご自宅にあった選択をされるとよいと思います。
2. 塩不要ウォーターソフトナーとは?
ウォーターソフトナーの難点を解決するため、最近では、Salt-free Water Softenerと言って塩を使わない軟水器の広告を目にすることがあります。
そして、その横にウォーターコンディショナーという名前がついています。
塩を購入する必要もなく、家全体に使えて、軟水ができる、
そんな夢のような軟水器があるのでしょうか。
ウォーターコンディショナーというのは、塩のイオン交換プロセスとは異なる方法で、ミネラルをできるだけ除去する、いわゆる大型浄水器のことです。
この装置は、フィルターや他の化学反応プロセスを使って、ミネラルその他、塩素、有機化合物、鉛などの不純物含有レベルを下げてくれます。
テクノロジーの進歩によって、様々な方法で、硬水のミネラル量を減らし、スケールとよばれる白いカスが発生しにくく、あるいは、発生してもすぐに落ちやすい状態にするというような浄水器が開発されています。
しかし、どれも、塩を使ったウォーターソフトナーほど、硬水のミネラルを除去できません。
逆に、ウォーターソフトナーは、硬水のミネラルを除去して軟水に変えますが、ウォーターコンディショナーのように、水道水の中の不純物を除去することはできません。
水道水を安全な飲料や料理用水にしたい場合は、ウォーターコンディショナーの方が適しています。
そして、シャワー等で髪や肌を乾燥から守りたい、洗濯物や家電製品を長持ちさせたい等で硬水を軟水に変えたい場合は、ウォーターソフトナーがおすすめです。
では、ウォーターソフトナーで変えた軟水の不純物を除去して、安全な飲料水にしたい場合は、どうすればよいのでしょうか。
3. RO (Reverse Osmosis-逆浸透膜) 浄水器
ウォーターソフトナーもウォーターコンディショナーも大型な装置で、家全体の水の質を変える装置です。
しかし、体の中に入る飲料水や調理用水だけを浄化するなら、大がかりな装置でなく、キッチンのシンクから出る水だけ処理する部分的装置で十分です。
市販で蛇口に取り付けるものから、シンクの下の水道管につなげるものまで、さまざまな浄水器が市販されています。
その中で最も効果的なのが、RO(Reverse Osmosis-逆浸透膜)浄水器と呼ばれるシステムです。
逆浸透膜は非常に細かいフィルターで、これを通すことで不純物を取り除くシステムです。
通常よく浄水器に使われる活性炭フィルターの孔(あな)の大きさが、1マイクロメートルに対してROフィルター(逆浸透膜)は0.0001マイクロメートルという超微細な孔です。
原水を浸透膜に通すと、水分子だけを通過させて有害物質や不純物は非純水(廃棄水)として排水します。
そしてRO浄水器は、硬水の原因であるミネラルも除去してくれるのです。
では、ウォーターソフトナーでなくRO浄水器を家全体の水に使えば、軟水になる上に不純物も取り除いてくれる、パーフェクトなウォータートリートメントシステムなのではないか、と当然思われることでしょう。
しかし、RO浄水器にも難点があります。
RO浄水器のROフィルターは、非常に目が細かく、もともとは工業用だったものを家庭水用に開発したものです。
価格も高価な上に、硬水の中の大量のミネラルを処理するとすぐにフィルターがダメになって使えなくなってしまいます。
そのため、せっかく取り付けても、何度も取り換えなければならず、費用がかさんでしまします。
そこで、一番効果的なのは、一度、ウォーターソフトナーで軟水化した水を、キッチンシンクの部分だけRO浄水器で浄化する、という方法です。
これだと、ミネラル分が除去されているのでROフィルターが長持ちし、さらに軟水に含まれるナトリウムも他の不純物と一緒に除去されるので、安心して飲料水として使用できます。
ただし、軟水とはいえ、RO浄水器の浸透膜は使用頻度によっては、定期的に取り換えなければならないので、その点は考慮する必要があります。
水の質を好みの状態にするには、手間や費用をかけずに、簡易式浄水器や市販の水ボトルを使う方法から、家全体に総合的に水の質を変えるウォータートリートメントシステムを導入する等、さまざまな方法があります。
ご自宅の水がどんな水なのか、硬水軟水、水の純度や添加物、装置にかかる費用などを考慮されて、ご家庭にあったシステムを選ばれてくださいね。