住宅不況の到来!?

 

不動産ブローカーの桜井きゃらです。

 

カリフォルニア州、ベイエリアでは、バートやライトレールなどの電車システムもだんだん充実してきましたが、まだ車社会。

 

車にガソリンを入れようとして、ガソリン代の急な値上がりにびっくりしませんでしたか?

 

(テスラなどのチャージングステーションも混んでいますしねえ。電気自動車自体在庫不足みたいですし。。。)

 

今年に入ってから、米国連邦準備制度理事会(FRB)は、とまらないインフレに歯止めをかけるため、利上げを繰り返してきました。

 

そのたびごとに、米国住宅ローンの利率も上がり続け、昨年3%台だった30年固定制ローンが、すでに6%以上!

 

それに反応して、家を買う人のサイフのひもも固くなり、以前のように競争でリスト価格が極端に吊り上がることが少なくなりました。

 

不動産市場は、たった一週間や一か月で、ガラっと風向きが変わることがあります。

 

それまで、市場に出せば売れていた売り手市場が、場所によっては、物件が売れるのにも時間がかかる、という状況になりつつあります。

 

少し前に米国の住宅アナリストが『住宅不況(Housing Recession)』という言葉を使って、現在の不動産市場を表現しましたが、住宅不況と聞くと、2008年の時のサブプライムローン問題で不動産価格が暴落した時を想像して、不安になる方もいるかもしれません。

 

では、本当にまた住宅不況が襲ってくるのでしょうか?

 

今回は、米国、特にカリフォルニア、ベイエリアで、住宅不況になるのか、ならないのか、データをもとにわかりやすくお話したいと思います。

 

 

住宅不況(Housing Recession)とは?

 

まず『不況』とは何でしょう?

 

モノ・サービスが売れなくて収益が減り、消費が減っていく状態が不況、不景気の定義とされています。

 

不動産市場でいうと、買い手がつかずに物件が売れなくなり、不動産価格が下がっていく状態ですね。

 

つまり、需要である買い手の数より、供給である物件数が大幅に増え、物件の価値が下がって、買い手がつかずに売れ残り、不動産価格が暴落するということです。

 

2008年のサブプライムローン問題の時には、まさにこれが起こり、フォークロージャ―(foreclosure)と呼ばれる差し押さえ物件が激増しました。

 

では、こんなことが、ふたたび起こるのでしょうか?

 

 

<サブプライムローン問題からリーマンショックへ>

それには、まずサブプライムローン問題とは、どんなことだったのか、を理解する必要があります。

 

すでにご存じの方も多いと思いますが、ごくかんたんに説明しましょう。

 

では、まずサブプライムローンって何でしょう?

 

サブプライムローンとは:『融資を受けにくい個人を対象とした低所得者向けの住宅ローン』のことです。

 

その反対のプライムローンは、『十分に所得があり、返済が滞る可能性が低い優良顧客向けの住宅ローン』のことです。

 

お金を貸す方としては、ビジネスとして貸しているので、確実に返済して利息を払ってもらわないと、損をします。

 

しかも貸出し金融機関は、貸した住宅ローンをまとめて、別な金融商品にして販売したりします。

 

とすると、そのうちの一つのローンでも返済が滞ってしまうと、貸出した金融機関だけでなく、そのローンを含んだ金融商品を購入した投資家や投資企業まで損益を出してしまいます。

 

そのために、ローンにもプライム、サブプライムなどと格付けして、儲けとなる利率を変えて貸し出していました。

 

そして、サブプライムローンを含む金融商品(不動産担保証券(MBS))は、不動産を担保としたローリスク・ハイリターンの投機対象としてどんどん販売されました。

 

元々収入が不安定であったり、返済し続けるのが難しい定職を持たない人たちにもどんどんローンを貸し出して、家を購入させる、

そして、住宅ローン支払い不能になったら、家を売却させれば、当時バブルで家の価格が高騰していたため、投資家は十分元手を回収できる、という計算でした。

 

こうして、売り出された不動産担保証券(MBS)は、世界中の様々な企業、団体、投資家に購入されました。

 

しかし、景気が悪くなると、こうしたサブプライムローンを借りて家を購入した人たちが、住宅ローンを支払えなくなり、次々に家を差し押さえられます。

 

その数が増えるにつれ、不動産価格は暴落し、元手を回収できなくなった不動産担保証券(MBS)は、紙切れ同然になり、ドミノ式に金融機関が倒産して、リーマンショックとなったわけです。

 

<サブプライムローン問題の原因>

サブプライムローンは、バルーンローンと呼ばれる、あとから大きな返済額が一気に来るローンや、急に金利が変動して月々の返済額が大きくなるなど、仕組みを知っていないと、リスクが高いローンがたくさん含まれていました。

 

その当時は、ローンを売るための知識もない人をローンオフィサーとして雇い、ローンの説明もほとんどせずに、ただ住宅ローンをどんどん売りつけるモルゲージローン会社が暴利をむさぼっていました。

 

十分な説明や審査もなく、サブプライムローンを借りたホームオーナーが、いつかは、差し押さえに追い込まれるのは、目に見えていました。

 

サブプライムローンを売っていた会社だけでなく、他にもそのリスクを知っていた金融機関もたくさんあったはずです。

 

バブル崩壊、リーマンショックを防ぐことができなかったのは、それを防ぐためのシステムが未熟だったんですね。

 

サブプライムローン問題を防ぐシステム

 

当時、経済を立て直すためにも、システムの改革が行われました。

 

その大きな柱となったのが、消費者金融保護局 (Consumer Financial Protection Bureau=CFPB) です。

 

 

<消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau=CFPB)の設立>

消費者金融保護局(CFPB)は、大統領候補にもなった、上院議員で、元ハーバード大学ロースクール教授のエリザベス・ウォレン氏が提唱し、

2010年7月バラク・オバマ大統領により署名されたドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法により創立された、

金融機関監督のための政府機関です。

 

このCFPBは、消費者をあやしいモルゲージローンやクレジットカードなどの被害から守るために、さまざまなガイドラインを設置し、消費者への情報も提供しています。

 

また、Mortgage Licensing Actなどのたくさんの法律がアップデートされてCFPBで監督されるようになりました。

 

現在、ローンオフィサーは、全員、指紋や素行調査書を提出してNMLS(Nationwide Mortgage Licensing System)に登録しなければならなくなりました。

 

かくいう私もローンオフィサーのライセンス(NMLS登録済)も持っていますが、もし悪いことをして消費者から訴えられるとライセンス剥奪(はくだつ)もしくは、警告されたことが公表されてしまいます。

 

こうしたシステムの改革のおかげで、再びサブプライムローン問題が起こることはなくなりました。

 

複雑でわかりにくいローンのdisclosureと呼ばれる書類も、どこをどうみたらよいのか、CFPBのウェブサイトに図入りの解説までついていますので、参考になさってください。

 

<厳しいローン審査>

また、その後、ローン審査が非常に厳しくなりました。

 

以前のように、収入証明なく勝手に自分の収入を多く申告するなどはできません。

 

ローンの仮承認(プリアプルーバル)を受けるのにも、最近2か月分の給与明細、過去2年間の税金申告書、クレジットリポート等々、隠れた財政情報すべてを提供する必要があります。

 

このため、サブプライムローン問題以降、厳しい審査を通って、ローンを借りられたホームオーナーは預貯金などの資産も保持しているため、多少の景気の悪化でも、ローン不履行になる場合は少なくなりました。

 

 

住宅不況の指標となるデータ

 

こうしたシステムの改善で、以前起こったサブプライムローン問題当時のような住宅不況は、まず起こらないと考えられます。

 

では、本当に、住宅不況が起こらないのか、今現在の米国全体のデータを見てみましょう。

 

<物件在庫と需要>

住宅不況の場合、家が売れずに物件が長く多く市場に残ります

 

例えば物件在庫がなくなるのに何か月かかるか、で物件在庫や販売速度がわかります。

 

売り手市場という定義は、大体物件在庫がなくなるのに4~6か月かかる状態をいい、それ以上物件が市場に残っている状態を買い手市場としています。

 

2022年の春以降から物件在庫は増えていますが、まだ3か月分程度です。

 

サブプライムローン問題時代の2007~2011年では、物件在庫がなくなるのに10か月から1年というデータが出ています。

 

それに比べると、現在の状況はまだまだ売り手市場の範囲内だと言えます。

 

 

<差し押さえ増加率>

データを見ると、確かにこの所少しずつ差し押さえ物件が増えてきてはいるものの、過去と比べるとまだまだ少ない数です。

 

今年2半期目で住宅ローン不履行となったのは、住宅ローン全体の1.9%と2006年以降で最低の率です。

 

こうしたデータを見る限りでは、差し押さえ率はまだまだ低いといえます。

 

<物件価格と住宅資産価値>

差し押さえが少ない、ということは、まだまだ住宅ローンの借入額よりも家の資産価値(Equity=イクィティ)が大きく、家を売却すれば、残ったローンの借金を背負うことなく、ローンを完済できる物件が多いということです

 

2022年の2半期目で、住宅ローンの支払が残っている48%以上の家が、50%以上の住宅資本価値を持っている

つまり、家を売却して、ローンを完済し、売値の半分は利益として手に入れられるホームオーナーが48%以上いる、ということです。

 

ここ数年、家の値段が上がり続けたおかげで、家の資産価値が大きく伸びました。

 

おかげで、ローン額を返済できないほど、安く家を売らなければならないような物件は非常に少なくなっています。

 

このデータを見ても、カリフォルニア州をはじめとして、西海岸の地域の物件は資産価値が非常に高く、売却時に損をする可能性が低い地域になっています。

 

ということで、これも差し押さえ物件が増えない要因の一つになっています。

 

 

<低金利によるリファイナンス>

 

つい昨年度までは、歴史的に見ても記録的な低金利が続きました

 

その期間に住宅ローンを抱える大勢のホームオーナーがローンの組み換え、リファイナンスを行って、安い金利の住宅ローンに切り替えました。

 

2021年には、600万人以上の買い手が、平均3%前後の住宅ローンで家を購入したそうです。

 

こうしたホームオーナーは、多少景気が悪化しても、安定して住宅ローンを返済していくと思われるので、ローンが払えずに差し押さえになるとは、考えにくくなります。

 

結論

 

ということで、今後、米国内の場所によっては不動産価格が多少下がったり、売れるのに時間がかかることはあっても、以前のような不動産価格大暴落で、差し押さえが続出、という状態にはならない、というのが多くの専門家の意見です。

 

どちらかというと、加熱気味になった不動産市場が落ち着きを取り戻したといった方がよいかもしれません。

 

家を購入したい人の数に比べて、まだまだ住宅は不足しています。

 

これから、家を売りたい方、買いたい方は、今後の利率や社会情勢の動きをみながら、うまくタイミングをつかんでいつでも動けるよう早めに準備されておくことをおすすめします。

 

住宅不況の言葉にまどわされず、いつでもすぐに動けるような準備をして、よいチャンスをつかんでくださいね。

 

 

<引用・参考文献記事・データ・画像>

・Inman article by Matthew Gardner, Windermere Real Estate

・”And Then the Roof Caved In”: How Wall Street's Greed and Stupidity Brought Capitalism to Its Knees by David Faber 

・”Chain of Blame”: How Wall Street Caused the Mortgage and Credit Crisis by Paul Muolo and Mathew Padilla

You may also like...

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です