米国不動産業界の新ルールで、アメリカでの不動産購入がますます難しくなる!?
不動産ブローカーの桜井きゃらです。
2024年8月17日から不動産業界の商慣習を大きく変える新しいルールが施行、というニュースをあちこちで目にされた方もいらっしゃると思います。
おそらく、
『今までのルールさえ、よくわからない』
ましてや、『新しいルールといっても何がどう変わったのか』、
『自分が家を買う時、売る時にどんな影響があるのか』、
あまりわかっていない、という方が大半ではないでしょうか。
実際にプロの不動産エージェントたちも、新しいルールによる新しい契約書や契約をするタイミング等の情報収集に追われているのも事実です。
そこで、今回は、この不動産業界の新ルールについて、わかりやすく解説したいと思います。
1.アメリカ不動産業界の新しいルールの発端は
まず、今までの不動産業界の商慣習はどうだったでしょう。
売り手がリスティングの契約時に双方の仲介手数料を支払うことを約束、購入者が決まったら、売り手側エージェントが買い手側エージェントにその仲介手数料を分ける形で支払う。
つまり、買い手は自分のエージェントに手数料を支払う必要なく、購入費用の心配だけをすればよかった、というのが一般的でした。
ところが、そうした商慣習は不公平であるとして、2019年にミズーリ州の売主たちが集団訴訟を起こしました。
これが発端となり、全米不動産協会(NAR: National Association of Realtors)や弊社を含む大手不動産仲介会社が訴訟に巻き込まれることになりました。
この訴訟では、売り手が、両方のエージェントの手数料を負担するシステムが不公平であり、価格交渉の自由競争を阻害していると主張されました。
裁判所は、原告の主張を認め、被告である不動産業界側に、売り手が買い手側のエージェントの手数料を負担する従来の慣行を改めるよう命じました。
この結果、全国的に新しいルールが導入され、2024年8月17日から買い手と売り手の両者に新たな対応が求められるようになりました。
2. 買い手が今後やらなければならない新しいルール
さて、では、買い手にはどんな影響が出たのでしょうか。
<買い手側エージェントとの購入者代理契約の義務化>
今までは、家探しを始めるのに、特に契約しなくても、エージェントに家探しを頼むことができました。
しかし、これからは、買い手側のエージェントときちんと購入者代理契約(Buyer Representation Agreement)を結ばないと、物件見学を頼んだり、物件情報をもらうことができなくなりました。
<買い手側エージェントへの手数料>
この契約書では、新ルールに基づいて、買い手が契約した自分のエージェントに手数料を支払うことがdefaultとして設定されています。
ただし、もし売り手が、買い手側エージェントにも手数料を支払うと申し出た場合は、買い手は支払う義務なし。
あるいは、売り手が、この契約書で明記された手数料より低い額しか申し出ない場合は、買い手は、契約書上の手数料と売り手が提供する手数料の差額を自分のエージェントに支払う、という内容です。
ということは、売り手が契約書上明記された額の手数料を支払ってくれる場合は、今までのように、買い手は手数料を払わなくて済むわけです。
<買い手側としての対策法>
では、家の購入を考えている人は、今後どんな準備をすればよいのでしょうか?
- 予算の見直し:万一、売り手が手数料を買い手側エージェントに提供しない場合、自分が負担しなければならないので、購入価格の予算に購入額、クロージングコストの他に手数料分も考慮する。
- 仲介手数料額確認:オファーを考える前に、売り手が買い手側エージェントへの手数料を提供してくれるかどうか、確認する。
今までは、プロ用のMLS (Multiple Listing Service) に、買い手側エージェントへの仲介手数料表示ができましたが、現在は、手数料の表示は禁止されています。
そのため、わざわざ売り手側エージェントに確認が必要になってきました。
また、売り手によっては、明確な手数料額を教えてくれず、オファーの価格次第で交渉可能、という場合もあります。
すべて交渉による自由競争になったわけですが、買い手側にとっては、手数料を支払う、支払わないが、各物件ごとによって違ってくるので、家が気に入るか、だけでなく、手数料がかかるかどうかも確認しないと予算オーバーになってしまう場合が出てきます。
3.売り手側にはどんな影響が?
では、売り手側にはどんな変化が起こったのでしょうか。
買い手側エージェントへの手数料提供に関して、売り手側の判断の自由が広がりました。
では、売り手は自分のエージェントだけに手数料を支払って、買い手側には全く支払わなくてよくなったのでしょうか?
なぜ、今まで売り手が双方に支払っていたのでしょうか?
実は、以前からも手数料は、交渉次第で売り手が決めることができました。
しかし、双方に手数料を出してきたのには、理由があります。
家を高く売るためには、家をきれいにするなどして、買い手を惹きつけなければなりません。
それだけでなく、買い手側エージェントへ手数料提供という魅力的な条件を出すことで、たくさんの買い手とそのエージェントを惹きつけることができます。
そして、買い手は自分のエージェントに手数料を支払わなくてよい分、購入の方へ資金をつぎ込むことができます。
こうして、高く早く確実に売却を進められるため、双方への手数料提供は、売却の必要経費と考えられてきたわけです。
また、手数料は、売却に伴う支出として、売り手にとって税金控除の対象になるという利点もあります。
なので、新ルールが施行されたから、買い手側に手数料を全く支払わないで、希望通りの価格で家が売れるかどうかは、地域や市場の動きによって異なります。
どのようにしたら、希望する通りに売却が進むのか、市場データなどを元に、エージェントとしっかり相談することがもっと必要になってくるでしょう。
4.不動産価格と手数料
商取引において、売値の価格表示と購入価格が一致している場合は、買い手も安心して買い物ができます。
例えば、ガソリンは、不動産のように、市場によって日々価格が上下します。
しかし、購入する時は、表示された価格通りの値段で、ガソリンを購入できます。
なので、表示された価格を頼りに購入を決心することができます。
米国の不動産売買は、中古住宅の転売が中心で、地域や家の状態などに大きな差があるため、さらに価格の変動が激しく、価格設定が難しい商取引です。
また、買い手と売り手との需要と供給のバランスによって、リスト価格よりずっと高い値段で売れたり、逆に低い値段で売れたりと、表示されたリスト価格通りに購入しにくい商品です。
オンラインで見かける表示されたリスト価格では、オファーが通らない、そのために、市場分析を元に予想価格を割り出さないと、不動産購入できないのが、ここシリコンバレーの不動産市場です。
そして、今度は、今までの慣習で、大体一定していた不動産仲介業者への手数料も、すべて交渉次第で決めること、となったわけです。
消費者として、自由裁量の方がよいか、一定の指標が明確に提示されている方が安心か、それぞれの見方の違いで判断は分かれそうですね。
結論
今までとちがって、自由に交渉可能というのは、現実の市場や売り手の心理を把握しきれない一般の買い手にとっては、逆に不明瞭で判断しにくい状態かもしれません。
また、売り手にとっても、新しいルールの元で、どうしたら一番よいのか、戸惑うことも多いと思います。
一番大切なのは、不動産エージェントから適切な情報とアドバイスを得て、しっかりとプロセスや支払いコストの内容を理解することです。
また、最新の市場分析データや地域の特性、家のコンディションと将来性等の情報を元に、物件の価値を把握するのも大切です。
知識あれば憂いなし。
安心して不動産取引を行うためには、エージェントに納得がいくまで相談されて、決して尻込みすることなく、ご自分のプランを実現させてくださいね。
<引用・参考文献記事・データ・画像>
NAR(National Association of Realtors) Settlement FAQs
https://www.nar.realtor/the-facts/nar-settlement-faqs
Homebuyers: Here's What the NAR(National Association of Realtors) Settlement Means for You
https://www.nar.realtor/the-facts/homebuyers-what-the-nar-settlement-means
Home Sellers: Here's What the NAR(National Association of Realtors) Settlement Means for You
https://www.nar.realtor/the-facts/home-sellers-what-the-nar-settlement-means